写真は京都の人気観光スポット嵐山の“竹林の小径(こみち)”です。1年前の2019年9月に訪れた時の様子です。訪日外国人旅行者を中心に賑わっていますね。Covid-19の影響により京都市内の外国人宿泊数は前年同月比▲99%(2020年6月)となっている現在の状況からすると、早期の観光需要の回復を願うばかりです。嵐山を訪れた1年前、私は京大観光MBAと京都市観光協会の「オーバーツーリズム」に関する共同研究プロジェクトに参加していました。観光客が激減した今となっては「オーバーツーリズムなんて騒がれた時期もあったな・・」と昔のことのように感じますが、決して過去の問題ではなく、観光需要が復活すればまた再発する可能性を秘めています。
オーバーツーリズムとは、特定の観光地において、訪問客の著しい増加等が、地域住民の生活や自然環境、景観等に対して受忍限度を超える負の影響をもたらしたり、観光客の満足度を著しく低下させるような状況。
JTB総合研究所
オーバーツーリズムの代表的なものとしては、公共交通の混雑や交通渋滞、ゴミや騒音の問題、私有地への無断侵入などがあります。あと、京都では舞妓さんをパパラッチするというのもありました。
共同研究プロジェクトでは、オーバーツーリズム対策の一つである分散化に効果のある情報発信の方法について調査をしていました。2020年2月にプロジェクトは終了し、研究成果のレポートが最近公開されました。興味のある方はご覧ください。(かなりページ数が多いです)https://www.gsm.kyoto-u.ac.jp/ja/news-event/news/2858-20200720.html
近年問題視されているオーバーツーリズムや、自然環境の破壊などを背景に、注目されるのが「持続可能な観光」です。今回のブログは、2週に渡って「持続可能な観光」をテーマに取り上げます。「持続可能な観光」を取り巻く状況や、今後取り組みが期待される観光地マネジメントの手法「日本版持続可能な観光ガイドライン」について紹介したいと思います。
「持続可能な観光」日本国内で本格始動
日本国内では「持続可能な観光」への取り組みが本格化する動きがあり、そのキックオフとも呼べるイベント「持続可能な観光地マネジメントの推進に関する説明会・意見交換」が7月3日に奈良県コンベンションセンターで行われました。
イベントを主催する世界国連観光機関(UNWTO)駐日事務所と観光庁から観光地マネジメントの手法について説明がありました。「持続可能な観光」を実現するためには、観光指標を活用したエビデンスベースのマネジメントが必要になり、これは世界的な潮流となっているようです。
そもそも「持続観光な観光」とは何でしょうか? UNWTOは次のように説明します。
持続可能な観光をわかりやすく定義すると、
世界国連観光機関(UNWTO)駐日事務所
「訪問客、業界、環境および訪問客を受け入れるコミュニティーのニーズに対応しつつ、現在および将来の経済、社会、環境への影響を十分に考慮する観光」ということになります。

国際観光客数は増え続けており、世界的に観光産業の重要性が高まる中で、地域に長期的な経済効果を生み、一方で自然環境や地域の社会・文化に負の側面が生じないように配慮することが必要とされていることがわかります。
日本において必要とされる背景
観光庁は2020年6月に世界基準に準拠した観光指標「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」を公表しました。JSTS-Dの策定の背景には、Covid-19が流行する前の訪日外国人旅行者の急増があります。

訪日外国人観光客数の伸びと同様に、訪日外国人旅行(インバウンド)の消費額も右肩上がりに伸びていました。外国人旅行者が日本国内で消費することを「外貨を獲得する」と表現しますが、製造業等の輸出額と比べると訪日外国人旅行消費額は自動車に次ぐ第2位の規模になります。(2019年速報値は約4.8兆円) このインバウンド消費によるインパクトの大きさが観光が成長産業と言われる理由です。
一方、訪日外国人旅行者の急増により、国内の有名観光地では前述のオーバーツーリズムと呼ばれる現象が見られるようになりました。日本のオーバーツーリズムは世界の有名観光地で起きている現象に比べると、それほど深刻ではないと言われます。しかし京都、鎌倉、ニセコ、富士山などでその影響が顕在化したことで、国内観光地から対応を求める声が上がり、観光庁は地域や環境と調和しながら観光産業が持続的に成長できるように観光指標(JSTS-D)を策定するに至りました。
来週の後編では、これから各地域への導入が期待されるJSTS-Dの内容をご紹介したいと思います。(後編はこちら)
[…] 前回の記事では、持続可能な観光が求められる背景について紹介しました。後編の今回は「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」をご紹介します。前回の記事はこちら。 […]